英語論文――MLAフォーマットとICUの英語教育

ICUは英語教育に力を入れていることで有名といえば有名なのですが, その中で通常2年次にほとんどの4月入学生が必修となっている 「論文作成法(Theme Writing)」があります. 基本的にここではどのようなテーマで論文をまとめても 構わないのですが,インストラクターが全員言語学や それに近い分野の方々ばかりなので,たとえコンピュータサイエンスに ついてまとめた論文だとしてもMLAのフォーマットが要求されます.

ここでは,私が実際に「ワープロの有害性とその解決策としてのLaTeX」 について論文を書いた実体験をもとに,どのようにMLAのフォーマットに合わせたのか, そしていかにICUの英語教育に矛盾が含まれているかという点を 突いていきたいと思います.

目次

ICUの英語教育の理不尽

この「論文作成法(Theme Writing,通称シーム)」というコース, 少なくとも私にとってはあまりにも理不尽なルールが多数存在するわけです.

引用文献は英語のものでなくてはならない

「英語の文献を引用しながら論文を書かなければ英語の勉強にならない」 というのがこのコースの主張なのですが,これほど意味のないルールも ないでしょう.

ほかにもこのルールの弊害は多数あると思いますが, 私としては,たとえば「日本語の文献の引用は全引用の20%以内で あれば認める」など,制限付きで 引用できるとしただけでも少しは違いがあるのではないかと思うわけです.

引用は多ければ多いほどよい

これまたひどいルールです.私は30以上の文献を引用しましたが, たとえばLamportの本やLaTeX Companionなどからは10ページ近い引用がありますが ほかの文献(Microsoft Wordのヘルプなども含む) からはたかだか数ページどころか数行の引用しかないのです. これで点数が稼げるのだから実にバカバカしいわけです.

論文の体裁はいかなるテーマを扱ったとしてもMLAフォーマットにすること

確かに引用した部分の在処(本や雑誌であればページなど,例:Knuth (85))を 明示するというMLAの引用の形式は実際に文献に当たろうと思った時には 便利であるといえるでしょう.

しかし,それぞれのテーマにはそれぞれに適したフォーマットが存在するわけ です.たとえば心理学に関係する事柄であればAPAフォーマットで書いた方が いいわけです.残念ながらICUで使われているライティングのテキストには van Leunenの引用形式やBibTeXで扱うのに都合のよいフォーマットについて 言及されていないので,LaTeX使いにとってはかなり苦しい立場に 立たされるのですが.

いずれにせよ,「自由なテーマ」とそれに適したフォーマットの間に 矛盾があることに変わりはありません.

実際のところ,インストラクターによっては上のルールを無視して とにかく論文の完成度を重視する人もいます. しかし,ほとんどのインストラクターは自分の扱いやすい文章しか 読みたがりません.別にそれはいいのですが,そうであるのなら なぜもっと言語学以外の他の分野にも精通したインストラクターが いないのでしょうか.逆に,分野が偏るのが仕方がないとするなら, 「自由にテーマを選べる」と言いながらなぜインストラクターは 文章を選り好みするのでしょうか(すべてのインストラクターに 当てはまるわけではないのですが).

「日本人の体質に合わないところまで何が何でもアメリカ式」という ICUの英語教育に対する不満はほかにも多数ありますが,ここでは本筋から ずれるため,この辺にしましょう.

実際のアプローチ

それでは,実際にページをまとめる際に行った方法をざっと並べてみます.

ページの空白の類

フォーマットをもとに,以下のように設定しました.

\setlength{\textwidth}{\paperwidth}
\addtolength{\textwidth}{-2in} 
\setlength{\oddsidemargin}{0pt} % ここまででページの左右余白を各1インチに
\setlength{\textheight}{\paperheight}
\addtolength{\textheight}{-2in}
\setlength{\topmargin}{0pt} % 上下の余白も1インチずつに
\setlength{\headheight}{1em}
\setlength{\headsep}{1em}
\addtolength{\textheight}{-2em} % ヘッダ分のスペースを空ける
\setlength{\parindent}{5ex} % インデントは5文字分

ヘッダとノンブル

fancyhdrパッケージを使用します.ヘッダとノンブルの間に 入る罫線の太さを設定する\headrulewidthですが, fancyhdrパッケージの場合は \setlengthではなく\renewcommandで 再設定することになっているので要注意です (参考).

\lhead{}
\chead{}
\rhead{SUZUKI~\thepage} % 自分のfamily nameと半角空けてページ番号をページ右上に
\lfoot{}
\cfoot{}
\rfoot{}
\pagestyle{fancyplain}
\renewcommand{\headrulewidth}{0pt} % 注意!!

日付

MLAの表紙に出す日付はLaTeX標準のそれとは違うので, 改めてマクロを設定した方が便利でしょう.

\newcommand{\mlatoday}{\number\day~%
\ifcase\month\or
  January\or February\or March\or April\or May\or June\or
  July\or August\or September\or October\or November\or December\fi~%
\number\year}

見出し

(初心者)MLAでは,見出しに番号を振るのはあまり好ましくありません. そこで,ひとまず

\setcounter{secnumdepth}{0}

として番号の出力を抑える必要があります.

(上級者)私はarticleクラスの定義をいじっただけなので あまり凝ったことはしていません. 実際は\sectionをセンタリングするところまで やりたかったのですが,結局やりませんでした. 各見出し直後のパラグラフにどうインデントを入れようか 迷ったのですが,結局各見出しの直後に\hspace*{\parindent}と入れて やり過ごしてしまいました.しかし,後にindentfirstパッケージと いうものがあることを知りました.これを読み込むだけで 見出しの後もインデントされます. indentfirstパッケージ(indentfirst.sty)は 最近のLaTeX2eであれば標準でインストールされていますが,なければCTANの macros/latex/required/tools/に置いてあります.

\makeatletter
\newcommand\mlasection{\@startsection{section}{1}{\z@}%
                                     {-3.25ex\@plus -1ex \@minus -.2ex}%
                                     {1.5ex \@plus .2ex}%
                                     {\Large\sffamily\bfseries}}
\newcommand\mlasubsection{\@startsection{subsection}{2}{\z@}%
                                     {-3.25ex\@plus -1ex \@minus -.2ex}%
                                     {1.5ex \@plus .2ex}%
                                     {\large\sffamily\slshape}}
\newcommand\mlasubsubsection{\@startsection{subsubsection}{3}{\z@}%
                                     {-3.25ex\@plus -1ex \@minus -.2ex}%
                                     {1.5ex \@plus .2ex}%
                                     {\normalsize\sffamily}}
\makeatother
\renewcommand{\section}{\mlasection}
\renewcommand{\subsection}{\mlasubsection}
\renewcommand{\subsubsection}{\mlasubsubsection}

文献の引用・文献リスト

mla.bstmlaパッケージを連携させますが 中身がchicagoパッケージとあまり変わりがなく, 普通に\citeを使っても引用元の著者と出版年が 括弧付きで出る(例:(Knuth, 1984))だけで役に立ちません.
 そこで,mla.bstmlaパッケージは使いますが, 以下のようにして\citeで引用元の著者名のみを 出力するだけに変えてしまい,ページ数は本文の中で決め打ちしてしまう, ということで乗り切りました.本当ならページ数をオプションでとるなりして コマンドの中に入れてしまえれば完璧なのですが.

\renewcommand{\cite}{\citeANP}
使用例:

According to \cite{LaTeXbook}~(46) . . .

出力結果:

According to Lamport (46) . . .

mla.bstmlaパッケージは, これらを読み込むLaTeXのソースファイルと 同じフォルダの中に置けばいいでしょう.

また,文献リストの文献の題名の大文字・小文字についても注意が必要です. BibTeXは{}で大文字・小文字の制御をしないと, 文献の題名の最初の語の1文字目以外は小文字にされてしまいます.

@book{knu:lp,
author="Donald E. Knuth",
title="{Literate Programming}",
publisher="Center for the Study of Language and Information",
year="1992"}

というように,titleのフィールド 全体を{}で括っておけばいいでしょう. ただし,どの語を大文字で始めるべきか, 始めるべきでないかはMLAスタイル関連の本で確認する必要があります.

表紙

articleクラスを使うため,titlepageオプション を使わなくてはいけません.ほぼarticleの定義を そのまま使うことができますが少し注意が必要です.

\title{\LaTeX\ Documentation System: \\ 
Flexibility and Universality} % 題名の改行は適宜
\author{By \\ % "By"はMLA必須 
SUZUKI Satoshi \\ % 著者名
\vspace{1em} \\ % 改行しスペースを空ける.最低1行以上
Mr.~Bean \\ % インストラクターの名前
ELP Theme Writing} % コース名
\date{\mlatoday} % 日付は前に定義したMLAに合ったものを

フォント(上級者向け)

せっかくLaTeXの良さを伝える論文なのにComputer Modernを使わないと いうのは不届きなところがあるかも知れませんが,ここは「他のファイル形式と の共存」というテーマもあることですし,ひとつ御勘弁を.

ただ,横幅が太いフォントばかりを使ってしまったため,紙数をかなり 食ってしまい,およそ4100語ほどの文章で10枚ほどの図と, 注,文献リストも含め30ページにも及ぶものになってしまいました. 詳しくは参考文献を.

\renewcommand{\rmdefault}{pbk} % ローマンにはBookmanを
\renewcommand{\sfdefault}{pag} % サンセリフにはAvant Gardeを
\renewcommand{\ttdefault}{pcr} % タイプライタにはCourierを
\newfont{\manual}{manfnt scaled \magstep 0} % METAFONTのロゴ用.要mflogoパッケージ

今回使用したパッケージ

ここから今回使用した各パッケージについて説明をします. もし新しくパッケージを入手した場合は,WindowsやMacintoshなどの場合は, $TEXMF/tex/latex/の下(要するに,.sty の名前のついたファイルが多数おいてあるフォルダの中)に置き, UNIXやLinux上で直接$TEXMF/usr/share/texmfなど) の中身がいじれない場合は 『日本語LaTeX2eブック』(参考文献)を参考に $TEXMF/web2c/texmf.cnfを自分のディレクトリにコピーして 必要なところを書き足し,環境変数TEXINPUTSTEXMFCNFを設定しておきましょう.

そして,実際のパッケージの読み込みは

\usepackage{mflogo,url,endnotes,fancyhdr,mla,tipa,multicol,psfrag,indentfirst}
\usepackage[dvips]{graphicx}

とプリアンブルに書けばできます.

endnotes

endnotesパッケージは,脚注をまとめて1ヶ所に出力するパッケー ジです.ただし,\baselineskipの長さを変えると出力がおかしくなった (Notes(正確には\notesname)と注が重なってしまう)ので,

\def\enoteheading{\section*{\notesname
  \@mkboth{\uppercase{\notesname}}{\uppercase{\notesname}}}%
     \leavevmode\par\vskip-\baselineskip}

の部分を見つけ,最後の\vskip-\baselineskip\vspace{1em}に変えてしまいました.

あとは,つぶしがきくように

\renewcommand{\footnote}{\endnote}

として, 本文では\footnoteで通せばいいわけです.

url

これは単に\verb命令内の改行を許すためのもので, 同様の働きをするパッケージはほかにもいくつかあります.とりあえず,

\url!http://www.tug.org/!

で大丈夫です.

multicol

multicolパッケージは多段組に使用します.今回は, リストが長くなって紙面を食わないようにするために使いました. このパッケージは大変用途が広いです.いろいろ応用できるでしょう.

ただ,パッケージ名はmulticolですが,文書内で 用いられる環境名はmulticolsなので気をつけましょう.

\begin{multicols}{2} % "2"は2段組の意
 \begin{itemize}
   \item HTML file
   \item Plain text file
   \item MS-DOS text
      .
      .
      .

 \end{itemize}
\end{multicols}

graphicxで図の挿入

おそらくgraphicxは図を文書内に入れるために 用いられることが最も多いのではないのでしょうか. 基本的に,図のファイル形式はEPSファイルが最も無難とされています. まずは,入れたい図をEPSファイルに変換して,

\begin{figure}
\begin{center}
\includegraphics[width=.5\textwidth,keepaspectratio,clip]{word2k.eps}
\caption{The appearance of Microsoft Word2000 on display}
\label{fig:wkk}
\end{center}
\end{figure}

とします.widthは図の幅(上の例では 文書の幅の半分の大きさ)を表し, keepaspectratioは元の図の縦横比を保つようにという意味で, clipはもし図に背景色がついている場合にその背景色が図の中だけで つくように,とするためのオプションです.

graphicxはほかにも文字を拡大/縮小したりもできます.この機 能を用いて少し遊んでみた例がこの 「まわす」「のばす」です.

psfrag

psfragパッケージは,もし図のEPSファイルを文書内に取り込んだ 時,その図の内に数式などLaTeXで書いたものを入れたい場合に用います.

例えば,図中の"latexlogo"という文字列をLaTeXのロゴにしたければ,

\begin{figure}
\psfrag{latexlogo}{\LaTeX}
\begin{center}
\includegraphics[width=.5\textwidth,keepaspectratio,clip]{process.eps}
\caption{The process of the \LaTeX\ system while generating documents}
\label{fig:process}
\end{center}
\end{figure}

と書きます.\psfrag命令の及ぶ範囲に留意して, 必要に応じて{}で囲むなどするといいでしょう.

tipa

TIPAは,福井玲先生による発音記号 (IPA, International Phonetic Alphabet) をLaTeX文書内にとりこむためのパッケージです. 藤野さんのページにインストールの説明がありますが,UNIX環境やLinuxに インストールする場合は,T3enc.defのあるディレクトリで

$ ln -s T3enc.def t3enc.def

としないとコンパイルできないので要注意です.

実際に使用した例が下の図のようなものです.Oxford Advanced Learner's Dictionary (5th Edition)の裏表紙見返しの文章を引用してみました.

TIPAの使用例

まとめ

実際の論文の中身については内容を書き直して日本語で載せたいと考えて います.いくつかインチキなことも書いていたりするので,そこも再検討しなが ら,という感じになりますが.とりあえず,基礎的な論文の書き方についての ケーススタディとしてまとめたのがこのページだと考えています.

これだけは書くべし!

Theme Writingで使いたい,という方は以下をコピー&ペーストして活用されても構いません.

\documentclass[12pt,titlepage]{article} % 文字サイズの変更(任意),表紙を別ページ立てに

% パッケージ読み込み

\usepackage{endnotes,fancyhdr,mla,indentfirst} % 最低限読み込む必要のあるもの
\usepackage{url} % ネット上のソースを使う場合にURLを書く場合に便利
\usepackage[dvips]{graphicx} % 図を読み込む場合は必須.[dvips]は使用環境に応じて変える

% ページ余白

\setlength{\textwidth}{\paperwidth}
\addtolength{\textwidth}{-2in} 
\setlength{\oddsidemargin}{0pt} % ここまででページの左右余白を各1インチに
\setlength{\textheight}{\paperheight}
\addtolength{\textheight}{-2in}
\setlength{\topmargin}{0pt} % 上下の余白も1インチずつに
\setlength{\headheight}{1em}
\setlength{\headsep}{1em}
\addtolength{\textheight}{-2em} % ヘッダ分のスペースを空ける
\setlength{\parindent}{5ex} % インデントは5文字分

% ヘッダ

\lhead{}
\chead{}
\rhead{YOURNAME~\thepage} % 自分のfamily nameと半角空けてページ番号をページ右上に
\lfoot{}
\cfoot{}
\rfoot{}
\pagestyle{fancyplain}
\renewcommand{\headrulewidth}{0pt} % ヘッダに下線は引かない

% 日付

\newcommand{\mlatoday}{\number\day~%
\ifcase\month\or
  January\or February\or March\or April\or May\or June\or
  July\or August\or September\or October\or November\or December\fi~%
\number\year}

% 見出し

\setcounter{\secnumdepth}{0} % 見出しに番号を振らない

% 引用

\renewcommand{\cite}{\citeANP} % 引用の際名前のみを出力するように

% 表紙

\title{What is The Title of Your Paper? : \\
How to Make It Clear and Consistent} % 題名の改行は適宜
\author{By \\ % "By"はMLA必須 
FAMILYNAME givenname \\ % 著者名
\vspace{1em} \\ % 改行しスペースを空ける.最低1行以上
Mr./Ms.~Instructor \\ % インストラクターの名前
ELP Theme Writing} % コース名
\date{\mlatoday} % 日付は前に定義したMLAに合ったものを

% 本文

\begin{document}
\maketitle % 表紙

% 本文内容をそれぞれファイルに分割する

\include{abstract} % abstract.tex(要約)を読み込む
\include{outline} % outline.tex(アウトライン)を読み込む
\input{intro} % introduction.texを読み込む
\input{body1} % body1.texを読み込む
\input{body2} % body2.texを読み込む
\input{body3} % body3.texを読み込む
\input{conclusion} % conclusion.texを読み込む
\newpage
\theendnotes % 注を最後に集める
\newpage

% 文献リスト

\bibliographystyle{mla} % MLAのスタイル(mla.bst)で文献リストを生成する
\bibliography{themewriting}
% themewriting.bibというBibTeXの文献データベースから,
% 本文中に引用された文献を抽出して文献リストを生成する
\end{document}

リンクは御自由に

SUZUKI, Satoshi V. / ssv"atmark"ntt.dis.titech.ac.jp / NITTA Lab / DCISS / IGSSE / Tokyo Tech